2010年03月02日

You'll Never Walk Alone

今や誰もが認めるトップ映画クリエイターとなったクリント・イーストウッドの新作『インビクタス~負けざる者たち~』見ました。
見終わったあと、「映画が好きでよかったなぁ」としみじみしてしまうような良作でした。

ラグビーを題材のひとつにした作品だけれど、決してスポーツムービーではない。それは劇場に来ていた人たちが試合場面について「誰が誰だか分からなくて入り込めなかった…」とぼやいていたり、「みるみるうちに強くなったよね…」と失笑していたりと、そんな反応にも現れているのだが、イーストウッドが中心的に描きたかったのはそこではないのですよ(それにしても凄い「絵」の連続でアガるし、手に汗握るのだが)。

オープニング、金網に挟まれた道を釈放されたマンデラ(モーガン・フリーマン)が車に乗って走り抜ける。片側の金網の中では南アフリカの支配層である白人のラグビーチームがトレーニングしており、もう片側の金網の向こうでは被支配層である黒人の男の子たちがサッカーに興じている。「分断」を象徴するシーンの、その真ん中をマンデラは走って行く。

そしてエンディング、熱狂に包まれた街中をやはりマンデラを乗せた車が行く。白人のスポーツであったはずのラグビーの代表チームの偉業にありとあらゆる人々が喜びを爆発させ、踊り、抱き合う。その中を行くのだが、そんな状況だから車は思うように進まない。渋滞を回避し、安全を確保するため回り道をしようとするSPにマンデラは言う。「ゆっくり行こう。急いでない」。そしてにこやかな満足そうな視線を群衆に向けるのだ(これ、ネタバレっちゃあネタバレだけど、この映画はそういう映画じゃないのでいいよね)。これである。この冒頭と最後のふたつのシーンがこの映画を象徴しているのです。

それまでの道のりも、これらのシーン・台詞に全て凝縮されている。この映画は、ラグビー南アフリカ代表がいかに厳しいトレーニングを積んで偉業を達成したかというお話ではなく、人々が長く分断された土地で、(たとえそれが一時的であるにせよ)ある一人の男の想いが、いかに広がっていったか、大統領邸宅のドアを開け、門をくぐり、角を曲がり、狭い路地を抜け、大通りを越え、平原の風に乗って、南アフリカ全土にいかに伝わって行ったかという映画なのだ。近道なんかしない、ゆっくりと、だからこそ力強く、ある時点からそれが怒濤の勢いとなって南アフリカを覆ってゆく。その着地点がこのラストシーンなのだ。
いや、素晴らしい作品でした。映画史に間違いなく残る傑作『グラントリノ』の次にこんなに高品質な作品を撮れるんだもんなぁ。
イーストウッド、まさに映画の神に愛された男ですな!



posted by キョー at 19:11 | TrackBack(0) | 映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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